その日曜日、私はパソコンに向かって、ネットサーフィンをしていた。いろんなサイトで絵を見ていた。先日、家族で行った美術館の展覧会の印象が強く心に残っていたためだ。「やっぱり、絵はいいわね」美術館からの帰り道、妻もそう言って喜んでいた。

引越しをしてからしばらく経つこのマンションにもだいぶ慣れた。毎日の生活の中で、少しずつ馴染んでいくようだ。でも、一つちょっと気になっていることがある。玄関だ。この玄関はゆったりとしたスペースが取られている。しっかり者の妻のおかげで、子供の運動靴などもいつもきれいに片付いている。でも、ちょっと殺風景な感じだ。この玄関の壁に絵を飾りたい。そう漠然と思っていた。


「あなた、何やってるの?」

パソコン画面を覗き込んでいる私に、妻の声がかかる。

「いや、名画の複製画をいろいろ調べていたんだ」

「複製画?」

「うん、結構しっかりしたものもあるらしいよ」

「でも、複製画って、小学校の廊下なんかにあったやつでしょう……」

どうやら、妻の複製画に対する印象はあまりよくないらしい。


それから1週間後、段ボールの宅配便が届いた。結局、買ってしまった。実のところ、妻はあまり賛成ではなかったようだ。でも私はこの絵を買うことで、何か生活にちょっとした変化があるような直感があった。家族との生活にちょっとした彩りが加わるというか……。

かなりしっかりとした梱包を解いて、絵を出してみる。絵が出てきた瞬間、気持ちも明るくなった。思ったよりもいい。実は、失敗したらどうしようという不安もちょっとはあった。でもこの絵を見た瞬間、そんな不安も消し飛んだ。

部屋の蛍光灯の下でよく見てみる。こちらを向いた絵の中の少女の表情にもハッとする美しさがある。また一枚一枚手作業で筆を入れた絵の具の感じもいい。人の手が入ると、印刷とはまるで違う。それは素人の私でもわかった。特に印象的なのはこのブルーだ。確か、ラピスラズリだとか言ったかな。見れば見るほど、何か引き込まれるような魅力がある。

今日、妻と子供は出かけている。玄関にこの名画を掛けて、待つことにしよう。特に妻の反応はどうだろうか。気に入ってくれるだろうか……。


「ただいまー。あら、いいじゃない!」

妻の一段と明るい声が聞こえた。「ちょっと高級感があるわね」とか、「玄関が華やかになった」とか、しきりに声を弾ませていた。息子も「美術館みたい」と嬉しいことを言ってくれた。

絵を一枚、家に飾る。ただそれだけのことで、雰囲気が変わる。それは、些細(ささい)な変化かもしれない。でも、そもそも幸せというものは、生活の些細なところに感じるものではないだろうか。

夫として、父として、 “ 些細な” 自信と幸せを感じている私を、絵の中の少女が見つめている。

『真珠の耳飾りの少女』
『真珠の耳飾りの少女』フェルメール

フェルメールと『真珠の耳飾りの少女』

17世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメール。生涯に残した作品はわずか35点ほどとされ、その希少さから「光の魔術師」とも呼ばれています。

なかでも『真珠の耳飾りの少女』は、謎めいた表情と神秘的な眼差しから「北のモナ・リザ」と称される傑作。少女が身にまとうターバンの青と、耳に光る真珠の白——その対比は、見る者を静かに引き込みます。

この青は、ラピスラズリという天然石を原料とした絵の具によるもの。当時、金と同等の価値を持つとされた希少な色です。

『真珠の耳飾りの少女』手彩色

職人の手彩色が再現する
あのラピスラズリのブルー

大塚巧藝社の巧藝画(こうげいが)は、美術印刷の上に、古美術品の修復も手がける一流の絵師が、一枚一枚、原画同様の絵の具を手彩色した複製画です。

いわゆる複製画は印刷のみで製造されます。それに対し、巧藝画は人の手が加わることで、印刷だけでは出せない絵の具の質感と色の深みが生まれます。ストーリーの中の夫が「特に印象的なのはこのブルーだ」と感じたのは、まさにその手彩色の力です。

巧藝画は、日本画の巨匠 横山大観が提唱し、およそ100年の歴史を持ちます。

2026年夏、14年ぶりの来日

2026年夏、『真珠の耳飾りの少女』が14年ぶりに来日します。オランダ・マウリッツハイス美術館が所蔵するこの名品は、大阪中之島美術館での公開(8月21日〜9月27日)のみで、他地域への巡回はありません。なお、マウリッツハイス美術館館長は「日本の皆さまに彼女を送り届けられる、おそらく最後となるであろう特別な機会」と話しています。

注文を多くいただいた場合は、発送までお待たせしてしまう場合もありますので、お早めにどうぞ。

『真珠の耳飾りの少女』

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